「ジーク様?」

「医師になることを諦めた本当の理由は、そのトラウマが原因だったんだな?」

真意を確かめるように言われ、アンナは黙っていた。心の傷の深さを改めて思い知ったようなその苦しげな表情を見て、アンナは話したことを後悔した。

「アンナ、私は……」

「ジーク様、また自分を責めるようなこと言わないでください。前に私に言ってくれたことを覚えていますか?」

涙を堪えてアンナはジークに笑顔を向けた。

「叶えられない夢もあるものだ。その時は、また別の道を進めばいい。適材適所という言葉があるようになって、私……その言葉にすごく救われました。自分のやってきたことは間違っていなかったんだって」

ジークは短く息を呑むと力いっぱいアンナを抱きしめ、肩口に顔を埋めた。

「……すまない」

耳元で囁かれた声は掠れていた。それは、トラウマを植え付けてしまったことに対しての謝罪なのか、はたまたこうしてただ抱きしめることしかできないアンナへの謝罪なのかはわからない。

「ジーク様、謝ることなんてなにもありません」

アンナはジークの背に腕を回し、宥めるように何度もさすった。

「アンナ」

しばらくしてから抱擁が解かれ、ジークにまっすぐ見据えられる。

「お前に必要なものは、どんな恐怖や不安に襲われようとも蹴散らすような強さだ。が、そんなもの、お前に降りかかる前に私がすべて振りはらってみせよう。お前が強くあるためならば……私は盾にでも剣にでもなる」

「ジーク様……」

指で頬を何度も撫でられ、ジークの頼もしい言葉がアンナの気持ちを奮い立たせた。

「あ……」

一瞬、視界が揺らぎ身体がよろめく。