ランドルシア国王が自分に傅いている。それだけでも身が震えるような思いだった。

「ジーク様、ひとつだけいいですか?」

「なんだ?」

どうしてもこれだけは言いたかった。彼を解放しなければ……。と、アンナはジークを包み込むようにニコリと微笑んだ。

「もう十字架を背負って生きていく必要なんてないんです。私に負い目を感じることもないんですよ。私、ジーク様が生きていてくれてよかったと思っています。尊い命を繋いでくれた父には感謝してもしきれません……」

その言葉にジークの双眸がゆっくりと見開かれる。課せられた十字架から解き放たれ、青々とした瞳の中に巣くっていた闇がすっと消えたように見えた。

「……私は、ずっとその言葉が欲しかったのかもしれないな。お前は私の救世主だ」

ジークのまっすぐに見つめる碧眼に胸が高鳴り、ドクンと波打つ鼓動が鼓膜にも響く。ジークから放たれるその色香にくらくらと眩暈がしそうになる。手の甲に触れたその柔らかな感触が、口移しだったとはいえ唇を重ね合わせた日のことを彷彿とさせた。