「貧困層に財政を費やすことに納得のいかなかった貴族たちは、次第にそういった貧しい者を排除すべく奴隷として他国に売りに出すようになった。陰で奴隷売買を生業としている貴族がいるんだ。そこで私は貧困層を虐げる行為に対して重罪の刑を定立したが……それでも法の目を掻い潜っての違法奴隷市場はなくならない」

懸命に公務に取り組んでても、実際の内情は思うようにはいかない。そんなジークの歯がゆさが伝わってくる。

(ジーク様も国を統治するのに頭を悩ませているんだんわ……)

ランドルシア王国は人口も多く大国だ。全員が同じ考えだとは限らない。そんな国民のためにジークがいかに孤独で戦ってきたのかと思うと胸が痛かった。

「この国の貴族たちは力をつけすぎた。中でもミューラン卿は少々厄介な貴族で手を焼いていたが……お前の正義感ある告発のおかげで尻尾が掴めた。と言ってもまだ、氷山の一角だがな」

「ジーク様がマーカスさんに腕の傷のことを尋ねたとき、きっとマーカスさんはミューラン卿を恐れて本当のことを言わないと思ったんです。お節介だったかもしれませんけど、どうしても許せなかったんです。弱い者が泣き寝入りするようなことが」

まっすぐで揺るぎない眼差しを向けると、ジークはほんの少し顔を綻ばせた。

「お前はまだまだ少女のようだと思っていたが、その気概には驚かされるな。私もお前と同じ気持ちだ」

ジークと同じ気持ちでいることが、こんなにも心強いとは思わなかった。嬉しいとさえ感じる。