クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「そうか……なかなか気の強い女だからな、国王である私にも平気で立てつく。お前も気をつけろ」

ジークが形のいい唇を曲げて、冗談混じりに小さく笑った。

「大きな湖ですね。昼間ここへ来た時にそう思いました」

今は暗くて見渡すことはできないが、一面に広がる暗闇が湖の大きさを示していた。

「この湖の先は海と繋がっているんだ。この王国で亡くなった人々はこの湖を舟で渡り、大海原へと旅立つ」

ランドルシアの貴族たちは、代々から受け継がれている墓を持っている。土に帰ることが死者への慰めだと信じられてきたが、海で眠ることができるのもまた幸せな死に方だという者もいた。

「今夜は満月だというのに、光の向きが悪くて足元が見えにくい。ぬかるんでいる所もあるからむやみに歩き回るなよ」

「わかりました」

水気を多く含んだ地面は柔らかく、ジークからもらった新しい靴を履いて来るんじゃないかったと、アンナは後悔した。