クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「とりあえずここを離れるぞ、私がお前を城まで送っていく」

「わかりました」

ここでマーカスに別れを告げなければならない。せっかく家に招待してくれたというのに、とアンナが申し訳なさそうにしていると、マーカスが微笑んだ。

「ここはやはりお前さんには似つかわしくない場所だ。また会えることを祈っているよ、さぁ、行きなさい」

「はい。マーカスさんもお元気で」

ジークが優しくアンナの肩に手を載せた。温かくて大きな手にドキッと心臓が跳ね、ほんのり頬が赤くなったそのとき、ふと刺すような視線を感じて見渡すと、ジークの傍らに立っているひとりの背の高い女性と目が合った。

後頭部の高い位置で結った黒髪は、背中まで流れる絹のようで、アンナをじっと見据える理知的な翠眼は新緑を思わせた。しかし、その瞳の気配は穏やかではなく、眉を顰めて嫌悪の色を滲ませていた。

(私を見ている……? 誰かしら?)

彼女は目の覚めるような美人で一度見たら記憶に残りそうなものだが、王都の住人ではなさそうだ。なぜなら、彼女は革を縫い合わせて作った胸当てを身につけており、腰には細身の剣を携えていたからだ。もしかしたら警ら隊の中に初めからいたのかもしれないが、アンナはまったく気づかなかった。