クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

丘を下って歩いていると、ひときわ湿気を含んだ風を感じてアンナはふと足を止めた。

(そういえば、この辺に湖があるってレオン様が言ってたわ)

約束の時間までにはまだ少し余裕がある。アンナはついでに湖がどんなところなのか行ってみることにした。

(珍しい薬草もあるって聞いたし、興味はあったのよね……さすがに幽霊だってこんな時間に出るわけないわ)

平静を装ってはいたが、内心レオンが言っていた“幽霊”が気になってしょうがなかった。道を外れて森に入ると、うっそうとした雰囲気がどことなくトルシアンの森を彷彿とさせた。木々をかき分けて進むと開けた場所に湖はあった。

(わぁ、すごく大きな湖ね)

向こう岸が見えないほどに面積の大きな湖で、足元にさざ波が立っていた。確かに天気のいい日は水面も煌めいているだろうが、今日は底なしの沼のように暗い。甲高い鳴き声をあげながらバサバサと鳥が飛び立ち、アンナはビクッと身体を震わせた。

(なんだか少し気味の悪いところだわ、天気のせいかしら……)

先ほどまで感じなかったが、いつの間にか鳥肌が立っていてアンナはその寒気に両腕を掻き抱いた。