クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「ごめんなさい。私、行きたいところがあるので……」

ボブロに言いつけられたことがどうしてもちらついてしまい、罪悪感を覚えながら裏路地へついて行くことを断った。それに本屋にも行きたかった。

「そうかい。わしはいつもこのあたりをよく散歩しているんだ。よかったら、また会ってくれないかい?」

「ええ、もちろんです」

アンナの返事を聞いたマーカスはパッと顔を明るくして、ゆっくりと座っていた噴水の囲いから下りる。

「いつの野垂れ死にするかわからないこんな世知辛い毎日だが、これからあんたとのお喋りが唯一の楽しみになりそうだよ。ありがとう」

また来週、昼過ぎに噴水広場で待ち合わせすることを約束すると、マーカスは街の人だかりに消えて行った。その後ろ姿は小さく、ふらついているようにも思えてアンナは心配そうにマーカスが消えて行った方をじっと見つめた。

(マーカスさん、身体大丈夫かしら?)

話しこんでいたらずいぶんと日が傾いていた。これから急いで本屋に行って帰らなければ遅くなってしまう。アンナはまた来週もマーカスのためにサンドイッチを作ろうと決めて歩き出した――。