クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「わしの家族はメアリーだけだよ。息子もいたが……ずいぶん昔の話だ」

マーカスの妻は若くして病で亡くなり、それからというもの酒浸りの生活をしているうちに、気がつけば仕事も家も失ってしまったという。その当時、まだ小さかった息子も育て続けることができず、息子とは二度と会わない。ということを条件に、別の家族に引き取られていった。と寂し気に語った。

「すみません。辛いことを思い出させるようなことを聞いてしまって……」

「いや、いいんだ。そんな過去も色褪せるくらいにわしは長く生きたからな」

そう言って、マーカスは力なく笑った。

人には様々な事情がある。アンナはこれ以上踏み込むことはできないと口を噤んだ。すると、マーカスがアンナの髪飾りを指さして言った。

「あんたのそれもすごく綺麗だ」

「ありがとうございます。誕生の贈り物で大切にしてるんです」

マーカスはうんうんと頷いて、にこっとした。

「そうか、なにかひとつでも大切なものがあるというのは、ときにそれが生きがいになる。この首飾りもわしの命よりも大切なものだ。それに、わしの妻の写真を見せたのはあんただけだよ」