クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

朗らかな雰囲気の中、突然男の怒鳴り声が聞こえてアンナが咄嗟に視線を向けると、上質な衣服を身に纏った貴族の中年男が馬にまたがっている姿が見えた。そして傍らには手綱を握り、貴族の馬を誘導している使用人が年老いた老人の前で対峙していた。

「どけと言っているのが聞こえないのか!」

使用人が怒鳴りつけると老人はますます萎縮して身を縮こませた。貴族の男は怯えて動くこともできない老人を、口を開くこともなくまるで汚らわしいものを見るかのような目で見下ろしている。

(っ、あれは……)

目を細めると微かに見えた。馬の鞍に記された見覚えのある家紋、それはコンラッドと懇意にしていた上流階級の貴族であるミューラン家のもので、コンラッドが死んでから一番に手のひらを返した薄情な家だ。おそらく、馬に乗っている中年男性がミューラン卿だろう。

「構わん、行け」