アンナはその夜、遠い記憶の中にある夢を見ていた。

バンクラール邸には入ってはいけない部屋があった。それは三階にある一番奥の部屋で、物置だと言われていた。しかし、好奇心旺盛でおてんば娘だった当時五歳のアンナは、そんなふうに言われたら入ってみたくていつもうずうずしていた。

ある日、父や侍女たちの目を盗み、誰も見ていないなら……と、まるで宝箱でも開けるような感覚でその部屋をそっと覗いた。

そこは音楽も何もない静かな部屋だった。眩しい日差しに照らされ、上半身だけ起こして誰かがベッドの上にいるのが見えた。窓の外を眺めてこちらには気がついていない。ベッドにいるのは十歳をいくつか過ぎたくらいの少年で、想像とは違う意外な光景にアンナは言葉がでなかった。

そのとき。

――誰かいるのか?