遊歩道を歩き、目的だった場所についた時である。

「剣淵くん!」

 その場所になぜか、北郷菜乃花と浮島紫音が待っていた。いったいどういう組み合わせなのかという驚きと、またこの嫌な面子が揃ったのかと呆れたくなってしまう。

 ちらりと八雲を見やるが、その瞳が丸く見開かれていたことから、二人がいることを八雲も知らなかったのだろう。

「お前ら、なんでここにいるんだよ」

 面倒なことに巻き込まれるのではないか。苛立ちながら菜乃花と浮島を交互に眺める。
 しかし、いつもならここに混じっていただろう三笠佳乃の姿はない。それが剣淵に違和感を与えた。

「おい。三笠は?」

 いないことに気づくと、無意識のうちに問いかけていた。

 剣淵が聞くと同時に菜乃花が泣きだす。

「……連絡、つかないの」

 関わらないと決めていたのに、その言葉を聞いた瞬間、剣淵の肌がざわりと粟立った。動転し、足元から冷えたものが這い上がる。

「何があった?」
「佳乃ちゃんが、伊達くんに会いに行って……それで、それでっ、」
「あいつは伊達と付き合ってんだろ。会いにいくぐらいおかしなことじゃねーよ」

 だが泣きじゃくる菜乃花の様子は尋常ではない。喋ることもできず地に膝をつけて、堰を切ったように声をあげて泣き続けている。
 代わりに浮島が、一歩前に進み出て言った。

「奏斗、何も聞いてないの?」
「あ? 聞いてるも何も、俺はあいつと伊達が――」

 キスをしている場面を見た。だから付き合っていると思った。それを言いかけて、気づく。
 その時は知らなかったが、三笠佳乃は呪いにかかっているのだ。嘘をつけばキスをされるなんて、奇妙な呪いが。

「佳乃ちゃんと伊達くんは付き合っていないよ」
「じゃあ、あのキスは呪い、だったのか」

 だとするなら三笠佳乃は何の嘘をついたのか。瞬時に思考が巡る。それは剣淵の願望も込められていたのかもしれない。心臓がどくどくとうるさく急いて、答えを求めてしまう。息を呑む剣淵に対し、浮島が続けた。

「『伊達くんが好きです』って言ったら嘘になっちゃったんだってさ。伊達くん、フラれちゃったねぇ」
「……でもあいつは、伊達に会いにいったんだろ?」

 伊達は性格の悪い嫌な男だ。嫌がらせはしても、佳乃に危害を加えるようなことはしないのではないかと剣淵は考えた。それが伊達を信じる最終ラインだったのかもしれない。

 しかし八雲は違った。「うーん」と唸り考えこんだ後に呟く。

「11年前の話で、最も怪しかったのは伊達享くんでしたね」
「それに。伊達くんは、佳乃ちゃんが話していないのに呪いのことを知っていた。奏斗でさえ言われなければ気づかなかった呪いを、伊達くんはなぜかノーヒントで知っていたんだよ」
「じゃあ、伊達があいつに呪いをかけたってことか?」
「それはわからないけどね。でも危険な人物だと思う。佳乃ちゃんはそれを知りながらも、伊達くんの呼び出しに応じたんだ」

 伊達は危険だと知りながらどうして飛び込んでいくのか。剣淵は頭を抱えた。

「バカだろ。なんで、伊達に会いにいったんだよ」
「わからない? 佳乃ちゃん、呪いを解きたかったんだよ」

 嘲笑うような浮島の物言いに、剣淵は顔をあげる。

「呪いによって、誰かさんを傷つけてしまったからね。呪いが解けてきれいさっぱりな状態になったら、もう一度話ができるかもって思ったんじゃない」

 はっきりと名を告げなかったが、その誰かさんとは剣淵のことだろう。それを察して、剣淵はため息をついた。

 やはり三笠佳乃はバカだ。
 いまさら、呪いを解いたからといって、また好きになるわけではない。いまだって、佳乃のことが好きなのか自信がなくなっているというのに。

「俺は、別にあいつのこと、」

 好きじゃないと言いかけて、声が震えた。口にしてしまったら引き返せなくなりそうで躊躇う。そのわずかな間に浮島が言った。