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 空き教室に集まることも考えたのだが、学校には蘭香もいるし浮島に見つかるかもしれない。それに菜乃花も部活動のため学校に残っているはずだ。考えた挙句、佳乃が選んだのは、一緒に帰ることだった。他の生徒に見られて噂をされるかもしれないが、それよりも他の邪魔が入らず剣淵と話をすることが重要である。

「……で、下校中に少し話ができたらと思いまして、このような形にしたんですけども」

 とぼとぼと歩きながら、隣にいる剣淵をちらりと見上げる。相変わらず不機嫌男となっていて、返答はない。反応がなくとも話は聞いてくれるだろうと勝手に判断し、さっそく本題に取り掛かる。

「この間のことだけど……私も、八雲さんが剣淵のお兄さんだって知らなかった」

 剣淵はじっと前を見ていて、頷くことも唇を動かすこともない。

「何があったのかはわからないけど、きっと剣淵は会いたくなかったんだと思う。なのに八雲さんと剣淵を会わせてしまったから、ごめん」
「知らなかったんなら、仕方ねーことだろ。謝るな」

 二人を出会わせてしまったことで嫌われたのではないかと不安だったが、ようやく返ってきた言葉に、佳乃は安堵する。

 しかし用件はこれで終わりではない。どうやって切り出したらいいものかと丁寧に言葉を探していると、剣淵が言った。

「んで、どうせ何か言われてきたんだろ?」
「……うん」

 佳乃が頷くと剣淵は数歩ほど歩き、「それで?」と続きを急かす。

「剣淵のお兄さん、結婚するらしいの。ねえ、その相手って誰だと思う?」
「あ? 俺の知ってるヤツか?」
「そうだよ――なんとね、蘭香さんなの」

 これにはさすがの剣淵も驚いたらしく「はあ?」と素っ頓狂な声があがった。

「あの後蘭香さんもレストランにきて、二人が結婚するって聞いてびっくりしたよ」
「じゃあ蘭香センセーは俺のことを知ってて、UFOの話してたのか……」

 おそらく、蘭香が剣淵を指名して『もう少し話してみたい』と言ったのは、婚約者の弟だと知っていたからだろう。八雲が剣淵に会うためのきっかけを探っていたのかもしれない。

「それで? その報告のために、兄貴は俺と会おうとしてたって話か」
「わからないけど、八雲さんと蘭香さん、結婚したら遠くに引っ越すみたい。だから……離れてしまう前に剣淵と話したいって言ってた」

 それは剣淵に伝えてほしいと八雲に頼まれていたことだった。こんな大切なことを部外者である佳乃から伝えていいものかと渋ったが、菜乃花や蘭香にも頼まれてしまったため逃げられなかった。

 そこで剣淵は立ち止まった。振り返って、佳乃をじっと見つめる。

 駅近くに住んでいる剣淵はこの道を曲がらなければならない。だが佳乃はこのまま真っすぐ。方向が同じならばもう少し話すことができたのだが、時間切れだ。

「……話は以上です。聞いてくれてありがとう」

 剣淵と一緒の下校もこれで終わりである。名残惜しくはあったが、用件は終わっているのに機嫌の悪い剣淵を引き止めることはできない。「また明日ね」と言って背を向けようとした時、佳乃と同じ道へ剣淵が歩き出した。

「え? 剣淵、こっちじゃないでしょ?」

 こちらから帰っては遠回りになる。首を傾げる佳乃に対し、剣淵は不機嫌な顔のまま言う。

「家まで送ってやるから、さっさと来い」
「送ってやる、って女の子に対してその言い方はどうなの?」
「あ? そもそもお前から話がある誘ってきたんだろ」
「そうだけど……」
「もう少し付き合え。行くぞ」

 ぶっきらぼうな物言いだが、しかし、もう少し一緒に歩いていれたらいいのにと思っていたので、剣淵との下校時間延長が嬉しい。