振り返ると、同じクラスの女子2人が笑顔で立っていた。


「風杏、おはよ!」


「お、おはよう」


「どうしたの? そんな驚いた顔して……」


「ううん、べつになんでもない」


びっくりした……ひとりごととはいえ、気をつけなきゃ。


3人でしゃべりながら、教室に向かう。


「今日も暑いね~」


「だよね~」


「まだ6月なのに、もう夏って感じだね」


私の“夏”という言葉に、両側にいたふたりが反応した。


「早く夏休みにならないかな~」


「だよね~。ムーンライトの夏のツアーあるしさ~」


「楽しみすぎてヤバいよね~」


ふたりがムーンライトの話題で盛り上がりはじめる。


「夏のツアー、風杏も行く?」


「えっと……私はいいや。ふたりで楽しんできて」


「え~? 風杏はヒカルに会いたくないの~!?」


大人気バンド、ムーンライトのボーカル、ヒカル。


このふたりのほかにも、クラスの女子の中には、ヒカルの熱狂的なファンがいる。


クラスの男子も、ムーンライトの曲をよく口ずさんでいる。


私がムーンライトにあまり興味がなくても、これだけクラスで流行っていると、だんだんムーンライトの曲や情報に詳しくなっていく。


「そ、それよりさ、こんな大人気なのにツアーのチケット取れるの?」


私の質問に、ふたりは同時にため息をついた。


「そこなんだよね~。遠征費も貯めてるのにチケットとれなきゃ終わるわ~」


「ムーンライトのためにバイトしてるようなもんだしね~」


「チケット当選しますように」


「ライブに行けますようにっ」


ふたりが手を合わせて祈っているのを見て、私もふたりのチケットが当たるように手を合わせて祈る。


「ライブ当選したら、服なに着て行こっかな~」


「ネイルもしたいし、美容院も行きたいし。いまから悩むよね~」


このふたりもそうだけど、誰かを夢中で好きになったり、恋をしている女の子たちが、うらやましくてたまらない。


好きなひとの話で盛り上がったり、好きなひとのためにおしゃれしてみたり、みんながキラキラして見える。


私にも、そんな相手が現れないかな……。


なんて、期待と願いもむなしく、すでに高校3年生。


このまま何事もなく、青春が終わるんだろうな……。