11時、時間通りにバスがやってきた。


私はベンチの上に置いていたリュックを背負い、停車したバスの中に乗りこむ。


バスのいちばんうしろの席、私から見て右側の窓際に座る伊原くんを見つけた。


「おはよう……っていう時間でもないか、こんにちはっ!」


「おう……こんにちは」


私は彼の隣に座り、リュックを足元に置いた。


「風杏のリュック重そうだな。なにが入ってんだ?」


「ふふっ、秘密」


バスの乗客は、運転手さんのうしろの席におばあさんがひとり、真ん中あたりの席に杖を持っているおじいさんがひとり、あとは私たちだけ。


「伊原くん、今日変装してないんだね。ヅラもメガネもしてないし」


「ヅラって言い方な。何回言うんだよ」


変装後の姿は、黒縁のメガネをかけ、もっさりとした黒髪で前髪も長く、顔の半分が見えない。


素の姿は、色白で、顔立ちが整っていて、サラサラできれいな金色の髪。


「外で素の伊原くんに会うと、なんかドキドキしちゃうね」


「ドキドキ?」