なんでも持っていて、なんでもやれて。
 私の気持ちなんて……。

 澪が訴えてみても谷は弾糾する手を緩めない。

「あぁ分からないね。
 諦めなきゃいけない夢なんてない。
 死にものぐるいで夢を追いかけたか?
 その程度で諦める夢なのか?」

 谷の責め立てるような言い方は澪の心を切り裂くように容赦なく向けられた。

 息をついた谷が一呼吸置いて穏やかに話し始めた。
 それらを澪はただただ聞き続けた。

「俺は医者になりたかったが、なれなかった話はしたよな?
 それでも夢は諦めなかった。
 澪の夢も他にいくらでも方法があるはずだよ。」

 澪の返事は期待していないようで「寝る時間までに帰す約束だ。帰ろうか」とハンドルに手をかけた。

 かけっぱなしだったエンジンと暖房のせいで曇ってしまった窓が晴れるようにエアコンを操作しながら、谷はずいぶん前に澪が懇願したことへの返事を返した。

「澪は同僚として俺の側にいたいんだね。」

「え、えぇ。はい。」

 辛うじて返事をした澪に谷は笑った。