頑なに話さない澪に谷が順を追って話し出した。
「小さい弟がいて、おじいちゃんも最近入院した。
一人でも頑張らないと、と気を張っていたのは分かるよ。」
「知って………。」
谷は全てを知っていたのだ。
それなのにどうして……。
「澪の口から聞きたかった。」
真っ直ぐに見つめる琥珀色の瞳は澄んでいて嘘偽りのない清らかな思いが伝わってくる。
だからこそ、その手を取ってはいけない。
谷が言うように祖父は少し前に入院したばかりだ。
七転八倒した祖父は虫垂炎だった。
手術費用は高額ではなかったが、現実を突きつけられた気がした。
虫垂炎ではあったけど今は元気だ。
それでも祖父も高齢になる。
いつどうなろうと覚悟をしないといけない。
借金自体は手術や生活費の出費が重なって消費者金融から借りたのが膨れ上がった。
こんな、少しのことで追い詰められるような自分達と谷とは住む世界が違う。
そんな人の手を取ってはいけない。
この人をこちら側の世界へ引きずり込んではいけない。

