前園に言われた「谷くんの本質は奪うんじゃなくて与える方だ」という言葉が、童話の幸福な王子の結末が、これ以上、私生活に踏み込んで欲しくないと頑なに思った気持ちを和らげさせていた。

 童話の結末はこうだった。

 全てを与えてしまった王子はすっかりみすぼらしくなって炉で溶かされてしまう。
 手伝っていたツバメも冬の寒さに耐え切れず死んでしまう。

 最後の最後には天国で幸せになれるみたいだけれど、死んでしまっては元も子もない。
 もちろんそれは絵本の中のお話で谷にそっくりそのまま当てはまるわけじゃないけれど。

 前園が言うように彼が何かを欲していて、それが家族の愛のようなものならば。

 彼が自分から奪おうとして奪えるものじゃない。

 博愛主義者じゃない、自分は自己中心的だと言っても。
 自分を助けたのは確かで、放っておいたら彼が人の為に何もかもを失ってしまいそうな危うさを感じないわけじゃない。