「澪ちゃんなら大歓迎。」

 いたずらっぽい顔でウィンクをした谷は立ち上がって「さぁ送ろう」と声をかけた。

 軽い足取りで準備を始めた谷を見て澪の心の中にスーッと冷たい風が通った気がした。

 付き合うことや、まして、結婚するということが本気であるのなら軽い気持ちで口に出せるものじゃない。

 驚いて馬鹿みたいだ。
 彼にとっては全てが思いつきの軽口で。
 全てに意味なんてないのに。

 確か一回り以上の年上。
 彼は澪よりずいぶん年上のイケメン実業家だ。

 その谷が結婚してない理由なんて聞かなくても分かるというものだ。

 1人の女性に、結婚に、縛られたくない。
 そういうタイプの人なんだ。

 だからこそ谷が口に出す『結婚』の二文字には重さを感じない。
 気持ちが、、入っていないから。

 自分だって……。

 そこまで思って、そっと背中を後ろ手で撫でた。

 忘れてはいない。
 幸せになってはいけない烙印は忘れさせてはくれないのだから。