「俺の夢は医者だった。
頭が足りなくて医者にはなれなくてね。
それでも人を幸せに健康にしたいと願った。」
そしたら会社を設立出来たとでも美談を伝えたいのだろうか。
谷の真っ直ぐな視線から逃れるように下を向いた。
夢を諦めた澪にとって今もなお夢に向かって突き進む谷はまぶしかった。
彼は当時を思い出したのか苦笑混じりに話す。
「だからその為になりふり構ってられなかった。
俺に足りないものを補ってくれそうな人に頭を下げて力を貸してくださいって。」
これには少しばかり驚いた。
いつも自信に満ち溢れていて、そんな彼を見て他の人達が一緒に会社をやりたいと集ってきたとばかり思っていた。
彼にはそれだけの魅力が備わっていて、最初から会社を興すべき人だったのだとばかり……。
谷の話は右腕の前園にまで話が及んだ。
「頭脳明晰で人徳のある前園さんが仲間になってくれたのは大きかった。
あとは芋づる式。いい人脈は、いい人に繋がってるって確信したね。」
「友達の友達は芸能人とか言うだろ?」と茶化す谷をやはり妬ましく思った。

