面接で話したことを思い出したことが表情で分かったのか、今度は谷が話し始めた。

「俺は何も持っていない。」

「何もって………。」

 自分のことを俺という谷はどこかいつもの彼とは違うように思えた。

「まぁ聞きなよ。」

 上品な育ちのいい御曹司というよりも、近所の悪ガキだったお兄ちゃんみたいに思えて親近感が湧く。
 姿形は変わらないのに、どこか少年のような顔をさせて話す。

「俺に学はないし、金はそこそこはあったが会社を起こせるほどじゃない。
 人脈もなければ、人徳もない。」

 そんなことない。
 きっと彼は謙遜しているだけ。
 そう思っても話の腰を折るのが嫌で黙って続きを聞いた。

「ただあるのは、熱意だけ。」

 熱意だけでここまでやってこれるわけがない。
 そう思うのに、今度は彼へ反論できない力強さを感じて口を挟めない。