祖父に谷を見送ってくると言って外へ出た。

 外は凍える寒さで谷は手に息を吹きかけるとコートのポケットにしまい込んだ。

「どういうことですか。」

 声は寒さと不甲斐なさで震えてしまったが、真っ直ぐに谷へと届いたはずだ。
 それなのにこの期に及んで谷はとぼけたことを抜かす。

「何が?」

「何がって。」

 結婚どころか付き合っていませんよね?

 そう問いただしたいのに敷地内では祖父の耳に入るかもしれない。

 谷自身もそれは心得ているようで多くを語らない。

「詳しいことは明日。だからこれ。」

 差し出されたのは合鍵とオートロックの解除方法が書かれた紙。

 押し返したくても、この件に関して今は話せないし、もちろん会社でも話せない。
 会社で秘密裏に話せるように彼が気を遣ってくれるとは到底思えない。