なんとなく彼から距離を取る。

「あ、臭う?大丈夫だと思うんだけどなぁ。
 シャツやスーツはクリーニングだし。」

 自身の腕や胸元に顔を近づけてスンスン臭いを嗅ぐ彼に苦笑してしまった。

「会社では敏腕CEOなのに。」

 呆れ声で言ったにも関わらず澪を見た谷は嬉しそうに微笑んだ。

「やっと笑った。」

 指摘されると居心地が悪くて下を向く。

 こういう谷の人の懐にスッと入る人たらしな雰囲気が澪は苦手だった。
 つい心を許してしまいそうになる自分が嫌だから。

 今回も話さなくてもいいことを口走っていた。

「私には、、幸せになってはいけない烙印があるんです。」

 たまに痛む背中をそっと押さえる。

「烙印……ね。」

 顎に手を当て、さすっている谷が何か考えてから口を開いた。