緊張から何度も息を吸う。
 高級な中華料理店に着いて、龍之介の祖父と待ち合わせをしていた。

 一番奥の広い個室は更に高級そうな雰囲気を醸し出していて、どうにも落ち着かない。

 龍之介の祖父は忙しい人で、なかなか時間が取れずに今も約束していた時間を押している。

「自分が指定したくせに遅れるだなんて経営者失格だな。」

「龍之介さん。
 まだ少ししか過ぎていませんよ。」

 憎まれ口をたたく彼も緊張しているからこその言葉だというのがよく分かった。
 その証拠にさっきから何度も水を飲んでいる。

「このくらいの遅れにグズグズ言うようじゃ龍之介もまだまだだな。」

「じいさん。」

 席を立って出迎える龍之介へ「おじい様と呼べんのか」と厳しい言葉をかけた。

 澪へ対しては頭からつま先まで眺めて品定めするような目つきをしてから席に着いた。

「龍は席を外しなさい。」

「何を言って……。」

「この娘と2人で話したい。」

 澪へ再び眼光鋭い視線が向けられて背すじを伸ばすと「よろしくお願いします」と頭を下げた。