ぼんやり歩いていた澪に男がありがちな常套句で誘ったのはほんの数分前。

「お姉さん。いい仕事があるんだけど話だけでも聞いていかない?」

 こういう得体の知れない人についていくほど頭が足りないわけじゃない。
 無視できなかったのは男が続けた言葉。

「簡単で高収入!」

 思わず足を止めた澪に畳み掛けた。

「お姉さん、可愛いから時給1万円も夢じゃないよ!」

 時給1万円。

 コンビニのアルバイトじゃ焼け石に水なのは分かっているし、時給が高いのは怪しいバイトなのも理解している。

 昼間に仕事はしているけど、それじゃ到底足りない。
 藁にも縋る気持ちで男へと歩み寄った。

 男も心得ているのだろう。
 お金に困っている瀕死の目をした女の子を見抜く力に長けている。