「思いつきで口にしたことを聞いて、すぐさま実行に移せる谷さんが素晴らしいです。」

「そう?これも澪のお陰だよ。」

 褒められると勘違いしてしまいそうになる。
 自分は本当に谷家へ繁栄をもたらせす幸運の女神なんじゃないかって。

 ……そんなはず、ないのに。

「それにしても言ったことを忘れるなんて酷いな。
 俺は忘れたりしないけどね。」

 意味深に微笑んだ谷は自分の手を軽く唇に当てて、あろうことか投げキスをした。
 冗談でやっているって丸わかりなのに、急激に顔が熱くなる。

「ハハッ。茹でタコ。」

「放っておいてください。
 からかい好きなんて悪趣味です。」

 抗議してもどこ吹く風で「からかうのは澪が可愛いからだよ。心配しなくても澪とのお付き合いはのんびり行くね」と笑う。

「それでね、、。」

 谷の言葉はインターフォンの音に遮られ、「もう来たのか。早いな」と席を立った。