ダイニングの椅子に腰掛けるとすぐに谷は報告を始めた。
 それは驚くことだった。

「祖父の会社に協力を仰いで健康になる靴の開発に取り組みたい。
 それを新しくポータブルヘルスケアに取り入れるつもりだよ。」

「すごい、ですね。
 昨晩に作業されていたのは、その事ですね。」

 鯵の開きへ美しい所作で箸を入れる谷が楽しそうな声を出した。

「澪、分かってる?君のお陰だ。」

「私?ですか?」

 目を白黒させる澪に谷は満足そうに頷いた。

「寝ぼけていたのかな。
 祖父の話をした時に「じいさんと一緒に幸せで健康になる靴を作ったら」と言ったのは澪だよ。」

「じ、じいさんだなんて、そんな。」

 いくら夢うつつだったからといって、天下の某スポーツ用品メーカーの確か今は会長職だっか、名誉会長だったかをやられている方をじいさん呼ばわりしただなんて!

「澪は丁寧に「おじい様」と言っていたから安心して。」

 言ったことを忘れていたわけじゃない。
 夢見心地にそう思ったことは覚えているし、それが口からこぼれていたのかもしれないのはぼんやり思い出せる。