目覚めのキスだなんて。

「そ、そんなこと出来ません。」

 震える声で訴えても、返事はない。
 当の本人はどうやら眠ってしまったようだ。

「寝ぼけて、、たのかな。」

 今度は起こさないように静かに握られた手を引き抜いて、音を立てないように寝室を後にした。

 寝言さえも、ともすれば殺人級な谷の言う『恋人』になれるとは到底思えない。

 それに「僕の恋人」と言われたことが心に引っかかった。

 俺ではなく僕と口にする彼は仕事モードの時だ。

 仕事として恋人役を命じられたの?

 そこまで考えてため息を漏らす。
 考え過ぎだよ。考え過ぎ。

 馬鹿な考えを振り払って朝の準備に取り掛かった。