「ほら。次は痛くしないから。」

 再び手を伸ばす谷に訝る視線を送りつつも、足を預けた。

「足の知識はおじい様から教わったものですか?」

「あぁ。その一部だよ。
 澪を苛められたから覚えたのも無駄にならなかったかな。」

 意地悪なことを言う谷が触れる手つきは優しい。
 足裏から足首、ふくらはぎの辺りまで。
 程よい圧迫が心地いい。

 痛かったマッサージが嘘のようにまぶたが重くなる。

 なんたかんだ言ってやっぱり谷は優しかった。
 意地悪も戯言も、優しくされても素直に受け取れない澪の為なんじゃないかと思えるほどに。

 だからこそ願望が口からこぼれ落ちた。

「せっかく覚えた知識ですし、おじい様と一緒に幸せで健康になる靴を作ったら………いい、のに。」

 すぐに眠れるマッサージは効果抜群で緊張していたはずの澪は夢の中へといざなわれていった。

 谷は寝息を立てる澪へ布団をかけてやると頭にキスを落とす。

「無茶なことを言うよなぁ。
 俺のお姫様は。
 幸せで健康になる靴……ね。」

 頬を撫で愛おしそうな笑みを浮かべると谷は寝室を後にした。