野獣は時に優しく牙を剥く


 家に戻る。
 彼が出たという何か確執がありそうな家……。

「言い伝えが残るような古い家でね。
 成人すると谷家の者として恥ずかしくない大人の自覚を促す為に、家紋の入った何かを親からもらうしきたりでね。」

 やはり彼は正真正銘、御曹司なんだ。
 彼の話をどこか別の世界の人の話としてぼんやりと聞いた。

「大袈裟なモノはいらないって断り続けて、どうにか片手サイズになった。
 邪魔にならないから捨てなかっただけだったが……それが功を奏すとは思わなかったよ。」

「これがなきゃ作り話だと思われただろう?」と軽く筆箱を持ち上げて笑う谷に、どちらにしてもお伽話みたいです。とは言わないでおいた。