カタンと音がして、肩を揺らす。

「ごめん。立って待ってたんだ。
 そんな格好で突っ立ってちゃ風邪をひくよ。
 ほら。おいで。」

 拍子抜けする優しい声。

「どうして……戻ってきたの?」

「ん?どうした?敬語、忘れてる。
 その方が俺は嬉しいから、これからはそうやって話してよ。」

 彼の態度がつかめない。
 脚は知らぬ間にガクガクと震えて立っているのがやっとだ。

「気持ち悪くなって私から離れていったんじゃ……。」

 自分で言った言葉に抉られるような痛みを感じる。

「これを見て。」

 言われて視線を上にあげた。

 谷の手には小さな箱。
 箱というよりもケースと言う方が正しいかもしれない。

 漆塗りなのか光沢のある黒色は上品な艶を放っている。
 ケースは印鑑入れか何かだろうか。
 片手に収まる幅で長細い。

 艶めく黒地の上には金色の紋様が映える。

「これ………。」