見上げると、建ち並ぶビルの隙間から雪をちらつかせる寒空が切り取られた絵画のようだった。

 寒いわけだ。

 どこか他人事にそう思いながらも、もっと凍える寒さになればいい、そうして殺人的な極寒に晒されて心までも麻痺したい。そう願った。

 しかし、そんな僅かな願いも叶わない。

 世の中も、自分では変えることない気候や運命も澪(みお)を嘲笑っているようにさえ感じた。

「どうしたの?こっちだよ。」

 短く促されて覚悟を決める。

 ぶるりと肩を震わせてコートに首を縮めたのは、寒さからなのか、今から自分に起こる凄惨な情景を思い浮かべたせいなのかは澪にも分からなかった。

 ここは華やかな街並みから数本奥へ歩いた薄暗い通り。
 遠くの喧騒がどこか別世界を思わせる。