藍原は一気に気が抜けたのか、大きな溜め息をついた。

「本当に、どこもなんともないか?」

再確認された私は、大きく頷いた。

「そうか、じゃあ、帰ろうか」

そう言うと、道路に落ちた買い物袋を持つと、まだ、少し震える私の手を、優しく掴むと、マンションに向かって歩き出した。

私の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる藍原、優しい手、それだけで、不安な心は少しずつ軽くなる。

「藍原部長」
「…ん?」

「助けてくれて、ありがとうございました」
「当たり前の事をしたまでだ」

それ以上の会話はなかったが、私は無意識に藍原の手を、強く握りしめていた。

…それからの藍原は、今までとは180度変わった。

優しさに過保護が加わった。

手を怪我したせいもある。病院ではただの捻挫だと言われたが、完治までは2週間はかかるという。

会社では、何一つ変わらないが、家での藍原は本当に優しい。

「ほら、それ貸して。」

手が痛くてビンの蓋を開けられないでいると、直ぐにそう言って、開けてくれたり、料理だって、恩返しのつもりでするつもりだったのに、結局藍原が全てしてくれた。

…こんなによくしてもらって良いものだろうか?