私が立ち去ったあと、藍原はさっさと食べて、先に席を立った。

「…早乙女」
「なんですか?」

「渡辺の事、本気なら、ちゃんと考えて行動しろよ」
「どういう意味ですか?」

「自分が人気者だっていうことは、分かってる筈だ。特に、女子社員から」

藍原の言葉に、光は黙って藍原を見た。

「遊びなら手を引け。それだけだ」

そう言った藍原は、お盆を下げ、食堂から出ていった。

光は、常に完璧な藍原が嫌いだった。容姿端麗、仕事は完璧。誰からも一目置かれる存在。

自分だって、仕事は常に全力で頑張ってきた。営業部のエースと呼ばれるほど努力した。一生懸命やっていたら、いつの間にか女子社員から注目されるようになった。

別に、モテたくて仕事を頑張った訳じゃない。ただ一重に、藍原を負かしたかった。

どうすれば、藍原に勝てるのか?

そう思い始めた矢先、藍原が明日香へ想いを寄せてることに気づいた。

藍原から明日香を奪ってしまえば、形勢逆転できるかもしれない。

そう思って、明日香に近づいた。

だが、誤算が生まれた。

明日香に惹かれてしまった。真面目で何事にも一生懸命で、誰に対しも誠実で。自分に対しても、それは変わらなくて。

光は、今後どうしていけば良いのか、悩んでいた。