「……佐々木さんが、見てるから」
「え?」
本日何度目かの、気の抜けたような声。
菊池は一向に目を合わせようとしない。
「見られてたら、書けません」
「だったらもっと早く言ってよ。平然と書いてるふりしてないで」
佐々木の言葉に、菊池が珍しく顔を赤く染めた。
ここまで動揺している菊池の姿を、佐々木は見たことがない。
「……言いました」
「いつ?」
「最初に、帰っていいって」
「それだけ?」
「……はい」
「でも」
「書きますよ。書きますから」
むきになった様子の菊池に、佐々木はぽかんとしてしまう。
今日は珍しい菊池の姿をたくさん見ている気がする。
「ふふ」
「なんですか」
「手伝うよ」
ふわりと笑った佐々木を、菊池は眼鏡越しでも見ることができなかった。