「目立つから?」

「目立つ人間は自然と視界に入ってくるものですから」

「白石さん、そんな目立つタイプだった?」

「どちらかというと、あなたの方が目立っている気がしますね」

「え?」

佐々木は目をぱちくりさせる。

「じゃあ、どうして?」

「……白石さんは、確かいつもあなたと一緒にいますね」

「え、うん。よく、知ってるね」

「目立つので」

「でも、私とは目合ったことないよね?」

「……それは、あなたが僕を見ていないからだと思いますが」

「見てっ……」

むきになったように声を張り上げ、佐々木はしゅん、と大人しくなる。

「見てるよ。……今」

「今の話じゃないです」

呆れたような菊池の声。
佐々木は困ったような顔でスカートの裾をいじる。

一瞬間を置き、菊池は再びシャーペンを動かす。
佐々木は覗き見をするように、菊池に視線を移した。

教室に響き渡るのは、シャーペンを走らせる音のみ。
菊池は日誌を見ていて、佐々木は菊池を見ている。

時々、吹奏楽部の演奏や運動部の声が扉の隙間を縫って入ってくる。

菊池の観察を続けていた佐々木は、思った。
それにしても、遅い。

ふと、立ち上がって日誌に目をやる。

「え?」

間抜けな声が口から出る。
日誌は先程までずっとシャーペンを走らせていたとは思えないくらい進んでいない。
帰るのが明日になってしまうのではないかと思うレベルだ。
驚いて顔を上げると、菊池は気まずそうに視線を逸らしていた。

「菊池くん」

「……なんですか」

「なんで日誌書いてないの?」

座り直した佐々木の質問に、菊池は眼鏡に手をやりながら返す。

「書くのが遅いんです」

「日付と日直の名前しか書いてないよ?」

返答に、菊池は落ち着かないように眼鏡のずれを直し、シャーペンをくるくる回す。
佐々木の視線はまだ菊池に向いている。