「元木」


電話のために廊下に出ていた俺は中に入って元木に声を掛けた
俺だってちゃんと報告したい

あと、専務にも報告しないとな
あの時、紗也を紹介出来る機会なんて来ないと思っていたから


「俺、結婚する」

「え?は?え?」


元木の驚く顔が可笑しくて思わず吹き出した
元木の表情が真面目なものに変わっていく


「山野………お前………紗也ちゃんは?」


やっぱり俺の周りも良いやつばっかりだ
俺の気持ちをちゃんとわかってくれている
飲みに行っても別れてからは一度も紗也の名前は出さなかったのに



「俺が紗也以外を愛せるはずないだろ」


そう、紗也と出会ってから俺の心はずっと紗也だけを想っていた
紗也でなければ結婚なんてしない

元木は顔を綻ばせてバンッと背中を叩いてきた
「いたっ」と思わず出た俺の声なんて聞こえてないかの様に
何度も叩きながら「そうかそうか、良かったなー」と嬉しそうに笑うから何も言えない


「幸せになれよ」

「あぁ、ありがとな」

「あーさっきのニヤケ顔はそう言う事か~
また、お前のニヤケ顔を見るのかと思うとゾッとするけどなぁ」

「は?ニヤケてねぇし」

「あははっ!無自覚こえー!」


そう言いながら元木は逃げるように去っていった
言い逃げか!