「それに、酔ってても紗也以外の女を抱くはずないから」


目の前の女は瞳を大きく開いて、ふっと表情を緩めた


「ほんと、完敗
貴方にも、紗也さんにも
二人とも優しすぎる………」


少し声を震わせた


「山野くん、ずっと好きだったの」


ガツンと何かを打ち付けられた様な衝撃
好意を持たれていた事にではない

俺はきっと10年もの間、どれだけ傷付けていたのか
昔ならそんな事、気にしなかっただろう
勝手に好意を持たれて迷惑、くらいに思ったかも知れない


でも、紗也と出会って、別れて
俺のこの感情だって紗也にとったら迷惑なだけだ


「ありがとう、高原
ごめんな」

「つっ、名前…………知ってたんだ?
私の事なんて興味ないと思ってた
山野くんはまだ、紗也さんの事………」

「好きだよ、愛してる」

「そっか、だったらちゃんと伝えないと
私、いま、山野くんにちゃんと伝えて、ちゃんと振ってもらえて良かったよ
前に進める、だから、山野くんも…………」


とんっ、と背中を押された気がした
結婚するからなんだ

結婚するからこそ、俺はちゃんと進まないといけない
そうじゃないと、俺は一生紗也が離婚するのを待ち続けるだけだ


「ありがとう」


俺はそれだけ伝えた
卓也に、紗也に会えるように頼もう

優紀ちゃんが一緒でも構わない
紗也に会えるなら

卓也の言うように、形振り構ってなんかいられない