「恭介!お前なんで何も言わずにニューヨーク行ってんだよ!」

電話口の声に少しだけ耳を離した
卓也から凄い剣幕で電話が掛かってきた


もちろん、想定内
電話が掛かってくることも
怒られることも
すべて


「あぁ、ごめんな
急だったから」

「……………紗也ちゃんは?」


耳に響く紗也の名前に胸の奥が疼く
卓也はまだ、知らないのだろうか?
優紀ちゃんから聞いてないのか?


「………別れた、ってより振られた」

「え?」


知らないのか、電話越しの声は明らかに戸惑っていた
紗也は言わなかったのだろうか

優紀ちゃんには言っても卓也には伝わっていないのか………
相変わらずの友情に嫉妬する

付き合っているときも紗也と優紀ちゃんの関係に何度も嫉妬した
そしてそんな関係を築ける紗也を別れたあとでも、いい女だと感じてしまう

この様子だときっと俺が仕出かした失敗も優紀ちゃんにも言ってないのだろう
優紀ちゃんが黙ってない
大好きな親友を裏切った俺を許さないはずだ


「え?マジ?え?別れた?なんで!」

「なんでって振られたんだよ」


口に出してしまえば更に現実が重くなる
逃げる様に早々とニューヨークに来た
本来なら一ヶ月以上先の話だったのに
先方が少しでも早くと言ってくれていたことに便乗した


日本に居ると忘れられない
いや、たぶん何処にいても忘れるなんて出来ない
今までもこれからもあれほどに求め、愛する女なんて現れない