「山野さん、どうして……」
「今日は早く終わったから、会社からならこの道しかないし会えると思って
早く会いたかったんだ
タイミング良かったみたいだな」
何に対抗しているのか
自分でも情けないほどに必死だった
「は?口説いてるってことは彼氏じゃないんでしょう?口出さないでもらえますか?」
「今日は俺が先約だからね、悪いけど連れていくよ
紗也ちゃん、行こう」
彼女の手を取って歩き始めた
強引だったかも知れない
彼女は俺に引かれながらも振り返って「お疲れ様です!すみません、また、」と頭を下げたりなんかするから、反省するはずの気持ちも引っ込んだ
「あんなヤツに愛想しないで」
「え?」
俺は何を…………
感じたことのない感情に訳がわからなくなり苛立ちながら頭を乱暴に掻いた
「悪い、俺、情けない
あいつ、若いし性格も良さそうだし
俺みたいな6歳も歳上なんて、紗也ちゃんからしたらおじさんだし嫌だよな」
情けない言葉が沸き上がってくる
彼女と毎日会える男に
自分よりもお似合いに思えてしまった男に
嫉妬と羨望
そんな思いに苛まれていたら暖かい温もりを感じた
「え、」
自分の胸の中にある温もり
俺のぎゅっと抱き着いてきたのは紛れもなく彼女だ
「さ、紗也ちゃん?」
突然の出来事に俺の手は情けなくさ迷っている
「好きです」
きゅっと胸が締め付けられる
今の言葉は幻聴ではないだろうか?
都合の良い夢を見ているのではない?
違う、幻聴でも夢でも
今、俺に抱き着いてきてくれているのは彼女に間違いない