何故、彼が?

 そんな気持ちよりも、彼が自分を大切にしてくれていた。
 空が話してくれた言葉を思い出し、律紀が自分にしてくれた事を考えてみる。
 
 すると、初めて会った彼がどうして、無茶苦茶な契約を受けてくれたのかがわかった。

 そして時々見せていた、切なく悲しげな表情。あれはすべて、夢がさせていたものだったのだ。


 律紀は何を想い、今何をしているのか。
 それが気になって、そして彼に会いたくて仕方がなかった。


 「律紀くん………。」


 夢はまた瞳に涙を浮かべていた。
 最近泣きすぎだな、そう思いながらもこの感情を止めることは出来なかった。


 そんな様子の夢を見て、武藤夫婦は何かを感じ取ったのか、にっこりと微笑んでいた。


 「なんだ、皇さんとは知り合いだったのか。それはよかった!」
 「そうねー。それに、夢さんにとっても大切な人なのかしら?」
 「…………はい。今はいろいろあって、離れてしまったんですけど。でも、私にとって彼はとても大切な人なんです。年下なのにしっかりしてて優しくて、勉強家で、そして純粋な彼がとても………好きなんだと思います。」


 初めて会った人達に話す事ではないかもしれない。けれども、この2人は自分を娘のように大切だと言ってくれた。

 それは夢も同じだった。

 自分の大切な人を親に伝えるのは普通の事だ。夢は、そう思って空と絵里に伝えたのだ。

 それが伝わったのか、武藤夫婦は今日会ってから1番の笑顔を見せてくれた。