私の思い違い。彼は怒っているのではなかった。向けられた優しい笑みがそれを物語っている。
なんだ。怒られていたわけではなかった。だなんて、安堵して肩の力がフッと抜ける。
「先方から美味しそうなお菓子を頂いたから、お茶にしよう。……だから、着替えておいで?」
「は、はい!」
その上、お茶まで誘われて、張り切って元気よく返事をしてしまった。
私のぎこちない行動を見ていたからか、ファビオは「わはははー」と笑う。
「公子様、あんまりラヴィちゃんを咎めないでやってくだせぇ。着飾ることしか脳のないお貴族令嬢サマより、働き者の女の方が妻にするにはいいんでっせー?」
「ラヴィちゃん?!……いや、ファビオの意見には同感だけど、それとこれとは話が別だよ。彼女は客人の身でここにいるんだから。……じゃ、ラヴェンダー嬢、後で」
「は、はいっ!」
そう言って、アルフォード公子様は付き添いの者と共にお屋敷に戻られていった。
その背中を見えなくなるまで見送り、うっとりしてしまう。
公子様、やっぱり素敵だな。なんて。
「むふふふ。お茶だって?よかったなぁ、ラヴィ?ダイスキな公子様に誘われたどぉー?いっっぱいオシャレしてけ!わははは。……あ、そのツインテールは子供っぽいからやめた方がいいどー?」
そんな私を終始観察していたファビオは、冷やかしの視線を向けて怪しく笑う。
ハッと我に返った私は、照れ隠しに「こら!」と反論してしまった。



