それもこれも、起こるはずのないことが起こってしまったからだ。
「はっきり言って、わかりません。……ただ、しかし。これは個人的な見解なのですが」
表情もスタンスも崩さないこの男が、スッと目を細めて口にしたこと、とは……。
「『ーー御世界に、異世界の【邪悪なる気】が蔓延る時』が、今、現在なのでは……と」
【秘匿されし聖女】が、牙を剥ける時。
つまり……この御世界が、邪力に包まれる危機を迎えるだろう、その時。
「はぁ?現在の魔獣らは静かに過ごしているじゃねえか。スタンピードの予兆なんか、欠片もないぞ」
「それがスタンピードを指しているというのは、故人らの解釈に過ぎません」
「って、おいおい。まさか、それ以外の何かが起こる……?」
「の、かもしれません」
「単なる推測か」
「さて、どうでしょう」
「……」
またしても、腹の底からおもいっきりため息が出た。
いろんな事が重なって、頭の中が騒がしいのに、これからまた何かが起こるのかと思うと嫌になる。
今まで起こったことの始末でさえも、頭が痛いのに。



