(……空が綺麗だわ)



馬車の窓から覗く風景。それは、地平線が見えそうなぐらいに、どこまでも拡がる一面の小麦畑と、雲一つない澄んだ青空だった。

この壮大な景色は、建物が並ぶ王都に目が慣れた者なら、声をあげるぐらい感嘆してしまうだろう。

私だって自然の長閑な風景は大好きだ。馬車の音だけがただ響く静けさは、心が洗われるようだし、緑の匂いがした空気も美味しい。

……けど、私はそんな壮大な景色を心から素直に喜べずに、何の感情も表現せず、黙ってボーッと見ていた。



何故ならば……私は、住み慣れた王都から、追放されてきたからである。

身に覚えのない、罪で。



「ラヴィ」

「あっ……はい」



呼び掛けられて、ハッと現実に引き戻される。

馬車の向かいの座席には、たった一人の兄・ランティスが、いつもの気難しい表情をこっちに向けていた。

そして、普段から口数の少ないお兄様は、簡潔に要件を伝える。



「まもなく領都に入る」

「……はい」



まもなく領都、それはわかっていた。

馬車の進む方向から、建物が並ぶ街の集落が見えてきていたから。



ルビネスタ公爵領、領都レディニア。

ーーー私の追放先である都市だ。