神託を授かり聖女となった者は、大聖女と筆頭聖女のもと、国のために各地で祈る。
聖女になるほどの聖力が見出されなかった者は、神官となり神殿を運営し、聖女を支える。もしくは、『聖力保持者』としたまま元の生活を送る者もいる。剣の腕がある者は神殿の護衛として聖騎士団に入る。
ランティスや公爵の長子・ランクルーザーは学園卒業の後、聖騎士団に入った。
国の平和を祈り、安寧を保つのが聖女の役目ではあるが……だが、『例外』の神託を授かるものもいた。
それが【秘匿されし聖女】である。
本来、聖女は神託にて、自然界の四大要素の加護を受けた聖力を、祈りを捧げるために授かる。
聖女の祈りは、天候の恵みをもたらし大地の豊穣を満たす。生まれ持った聖力で傷ついた人々を癒したり、聖力を発することによって魔獣からの脅威から国を護る。
……だが、この秘匿されし聖女とやらが授かる力とは、『邪悪に立ち向かう聖力』であった。
ーー御世界に、異世界の【邪悪なる気】が蔓延る時。
【秘匿されし聖女】が、牙を向ける。
聖女らの祈りも届かぬぐらい、邪悪なる気が世界を恐慌に陥れるその時。
秘匿されし聖女が、己の力を以って邪悪を滅ぼす。
ーーと、過去の古い文献には記されている。
『異世界の邪悪なる気が蔓延る時』とは、どのような状態を指しているのか。
数十年に一度、魔界から漏れ出す魔力の淀みによって発生する魔獣の氾濫、スタンピードのことではないかと解釈されている。
直近では約80年前に、自国と他国の境界で発生していた。



