……そんな中、ほんの一瞬だけ。思い慕うあの御方のことを思い出す。



《俺の女神を傷つける醜女よ。この正義の刃で切り刻んでくれる……!》



アルフォード様も、こういった状況でアゼリア様に剣を向けたのだろうか。

あの時は恐らく、絶賛【魅了】の手の中にあった状態だ。状況は酷似しているはず。

……だけど、時が経ち、アルフォード様は自分の犯した行動を後悔していた。



《そして、今もわからないのです……自分自身が》



あの時の、心が泣いていたような切ない横顔を、私は忘れることができない。

……この、私に平手打ちを喰らわせた令息も真面であれば、我に返ってこの『女性に手を挙げた』という事実を知った時、恐らく後悔するのだろう。

あの時のアルフォード様のように。



それもこれも、【魅了】の所為。

ローズマリー令嬢が、乙女ゲームという自分よがりでヘンテコなよくわからない物語を騙る所為。

全て、ローズマリー令嬢の私利私欲によるものなのだ。



(許せない……)



今までのことを思い返して、私は拳を強く握っていた。