「……」
ローズマリー令嬢は、ポカンとしている。
大聖女様にはっきり断言された勢いに圧倒されたのか、それとも言われたことの意味を理解していないのか。
「……さて、貴女に【魅了】を使ったという自覚が全くないようですが?貴女に禁忌を唆したのはどこのどなたなのか。調べる必要がありますね?」
「は……」
「貴女にも少しお話を聞きましょうか、トルコバス侯爵令嬢」
「ま、待ってよ!重罪とか禁忌って!……私はこの物語のヒロインなのよ?!」
ローズマリー令嬢は途端に慌てだした。自覚が全くなかった『罪』というものを突きつけられたからだろうか。
「貴女の騙る物語は、もうどうでもいいと言いましたが」
「よくないわよ!私は……ラスボス倒して、ハッピーエンドになるんだから!」
そう言って、ローズマリー令嬢は大聖女様をビシッと指差す。
随分と失礼な振る舞いが続くなと呆れて見ていた、のだが。
(あっ……!)
それは、突然で。
嫌な感じの空気が、ザワザワッと腕を掠めて通り過ぎる。
気付いた時には、ローズマリー令嬢を取り巻くあの赤い邪気が、砂嵐のように吹き荒れていた。
邪気は徐々に集まって密集し、ひとつの風の渦になる。
降りかかるその先は……大聖女様のいる方向だった。
「……大聖女様っ!」



