「ラヴィ、落ち着きなさい」
血の気が頭に上り大爆発した私の肩を、大聖女様がそう言って宥めるように叩く。
「で、でもっ、大聖女様」
「冷静になりなさい、ラヴィ。彼女の話はあくまでも彼女の言い分……彼女の中だけでの話なのですよ」
その一言で、ハッと我に返る。
そうだ。これはあくまでも彼女が騙る、彼女の中での話。いけない。つい感情的になってしまった。
だが、向こうでは、大聖女様の一言に反応したのか、今度はローズマリー令嬢が「はぁぁっ?!何よそれ!」と、感情的に怒鳴り散らしていた。
鼻の穴を広げ、もはや麗しの愛らしい美少女は見る影もない。
「この世界は『アフ愛』の世界なのよ?!私がヒロインで、私は!悪役令嬢の虐めにも耐えて、たくさんの困難を乗り越えて、神殿を倒して国を救って、イケメン攻略対象らとラブラブハッピーエンドになる物語なんだから!……ここは、その世界なの!」
そう強く主張するローズマリー令嬢。自分の騙る話は断固として間違いじゃないと、信じて止まないようだ。
だが、それを静かに両断するかのように、大聖女様は言葉を返した。
「お言葉ですが……それは、その通りになりましたか?」



