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斜め上から見ていた自分のいる世界を、きちんとまっすぐ見られるようになった。

そんなきっかけを与えてくれた、彼女。

……だが、会うのはそれっきりとなる。

てっきり、彼女も自分の婚約者候補の令嬢なのだと思っていたら、父から『聖女見習いで神殿に身を置いているので対象外。ただ遊びに来ただけだっつーの!この自意識過剰!』と言われて落胆したのを覚えている。

その上、他と一緒で碌な令嬢ではないのだろうと、自己紹介を聞き流していて、ろくすっぽ名前を覚えていなかった。この日ほど自分を恨んだことはない。

名前……何だろう。

あのラベンダー畑が由来の名前。色関連で『ヴィオレット』とか?それとも?

だなんて、そのまんま『ラヴェンダー』という変わった名前だとは思いもしなかった。

だから、数年の時を越えて再会した時にはビックリしたものだ。



しかし、記憶というものはきっかけがあればみるみると蘇るもので。

彼女とラベンダー畑で二人。白い帽子から伸びる薄紫が透ける銀髪と、凛とした横顔を目にして、あの時の彼女で間違いないと気付く。



『全ては、精霊王様の思し召しです!』



……本当に、そうなのかもしれない。