そう、エリシオン王太子様は最初、『何なんだおまえたちは!』と、私たちに怒鳴りつけた。
でも、私たちもアゼリア様のため。一肌脱ぐために負けじと主張した。
……の、だが。エリシオン王太子様の指の先に赤いてんとう虫がくっついていて、つい……。これは、余談。
(あ……)
過去の記憶を辿って、ハッと気付く。
みるみるうちに蘇る記憶……それは、今、現状と重なる部分。
……指先に留まる、赤い星。
(……あっ)
こんな大事なこと、何で忘れていたのだろう。
王太子様のその、指先に留まっていたてんとう虫……赤い星を。
私はその後、それをいくつも見かけた。
アゼリア様と王太子様に呼び出されて御面会した、数人の高位貴族令息たち。
その時、その場には必ず……いた。面会したどの令息たちにもくっついていたのだ。
赤い星のような、てんとう虫が。
ーーー先程、目にしたものと似たものだ。
ローズマリー令嬢の足元から立ち上る赤い風。
粒子、赤くて小さな虫のようなもの。遠くからだったから、それがてんとう虫かどうかはわからなかったけれど、似たようなもの。
赤い……星。



