『きゃっ、アゼリアさん恐いわっ……』



そう言って、体を震わせたローズマリー令嬢はエリシオン王太子殿下に力無くしなだれかかる。まるで、助けを求めるように。

アゼリア様の思いも知らず!……ローズマリー令嬢の行動にはほとほと呆れた。

散々失言しておいて、責められると涙を浮かべて殿方に庇ってもらおうとするなど、とんでもない根性だ。

そんな彼女を一瞥し、見習い仲間と息を飲んで経過を見守っていたのだが。



『アゼリアぁぁっ!公衆の面前でローズを責め立てるとは、愚かな!』



激昂して叫ぶのは、あの王太子殿下エリシオン様だ。怯えるローズマリー令嬢を腕の中に庇いながら、アゼリア様に向かって怒鳴る。

彼女の立場を思って注意したのに?それを、ローズマリー令嬢が怯えたばかりにアゼリア様が責められるなど。理不尽以外何物でもない。

アゼリア様からしたら、自分と将来を共にするはずの殿方が他の女を抱き寄せて、婚約者である自分に敵意を向ける。という、なんらおかしい光景。

それを真正面から見ているアゼリア様は、今どう思っているのか。その心中を想像すると、とても切ない。きっと泣きたい気持ちでいるに違いない。